ヒダハタケ(Paxillus involutus)(毒)

ヒダハタケ写真1(47KB) 写真1
2004年9月15日
長野県長野市
(47KB)
ヒダハタケ写真2(75KB) 写真2
2004年9月15日
長野県長野市
(75KB)

スギヒラタケの急性脳症の話が出たとき、思い浮かべたのがこのきのこだった。

「日本の毒きのこ」(「きのこ図鑑のページ」参照)をみると、

「食後1〜2時間後に腹痛、嘔吐、虚脱、下痢が起こり、ひどい場合には溶血による黄疸、乏尿、腎臓の痛みなど臓器不全で死亡する。(以下略)

などとある。

これだけでも恐ろしい記載だが、長岡技術科学大学の宮内教授によれば

「(前略)これまで述べたキノコは急性の毒性を持つものであるが、近年クローズアップされてきたのが、慢性の毒性である。茶褐色の地味なヒダハタケは、かつて食用とされたが、人間の抗体を少しずつ破壊する恐ろしいキノコであることが次第に明らかになってきた。
(中略)このキノコを常食していると、二年くらいで死んでしまうという。
 キノコの毒性には未だ不明な点も多い。科学的に正しい知識を身につけて、食毒を判定することが大切である。」(宮内信之助(1989)キノコその文化、(株)文化、見附市:p.32)

とのことで、「急性脳症」と「慢性の毒性」となんだか逆のことをいってみるようだが、何を言いたいかというと、
「長年スギヒラタケを食べ続けることにより、ヒダハタケのように慢性毒性で中毒するのでは?」という仮説である。

で、もう少し専門書を漁ってみた。

「ヒダハタケ(Paxillus involutus)は、生でも食べられるといわれている。日本、ヨーロッパでは死亡した報告がある。下痢は強烈であり、肝の脂肪変成、貧血、腎障害が報告されており、今後検討が必要である。
 ポーランドで109症例のうち96例が入院を必要としたとの報告がある。これらの報告によると症状は急性循環虚脱、肝・腎障害がおもなもので、食後1時間で四肢冷感・胃痛・発汗・意識障害が起こっている。
 M.Winkelmamらにより報告された症例:
 37歳、男性。
 1982年9月12日、昼食にヒダハタケを食べ、食べた直後、眩暈・嘔吐が起こり、6時間後治療した。これまで、何回か同一のきのこを食べたが、症状はでていない。この4週間後、同一のきのこを食べ、嘔気・嘔吐・背部痛があり、病院で受診している。(専門用語多用の症状記載につき略)免疫学的検査を(中略)行った。この患者ではヒダハタケに対するIgG抗体があった、恐らく免疫的機序により溶血が起こったものと考えられている。
 この症例のように潜伏期が長いものもあるが、30分から2時間の間にショックに陥る場合もある。その後の検査では、溶血は現れていない。」(山下衛(1993)きのこ中毒、共立出版株式会社、東京:p.158)

なんだか引用ばっかりになってしまった(汗)が、このようにきのこの毒性にはさまざまな性質のものがあり、科学的によく調べる必要があるということだけは間違いない。また研究の進展によって、現在食用とされているきのこが突然毒きのこになることがありうるということである。すなわちスギヒラタケが急に疑わしいきのこ(あえて毒きのことはいわないが)になってしまったのも、あながち驚くべきことではないかもしれない。

(2006年10月27日 作成)


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